酒匠研究会認定  :  酒匠アドバイザー
日本酒サービス研究会認定 : きき酒師

平井 真二  尾内 一成
Q : 時々、日本酒もワインと同じように寝かせておくと、美味しくなるのと尋ねられます。
A : 答えはイエスです。(但し保管状況によります)
今まで私たちは日本酒は出来るだけ早く飲むものだと思っておりました。しかし、お酒の風味や味わいは、造られた時から少しずつ変化していくものなのです。
搾りたての新酒は香り豊かで炭酸味を帯びたフレッシュでシャープな味わい、硬質な質感が特徴ですが、保存の状況によって様々な味わいに変化してゆきます。昔から夏越しの酒は美味いといわれてきました。それは、冬の寒仕込で出来た酒が、春、夏と過ぎ、秋口まで寝かせることで、新酒時の舌を刺す炭酸分の刺激がなくなり、爽やかな口当たりとスムーズな喉越しへと変化してゆきます。香りも、新酒香と呼ばれる強いエステル香が段々と弱くなり、酒味と香りのバランスがとれて、快く感じられます。そして、全体としては「まろやかな」酒へと変化していきます。
このように、酒もワイン同様、熟成させることによって風味と味わいが一段と良くなるのです。特に「大吟醸」とか「吟醸」といわれる酒は、熟成という年月を重ねることによって、酒が持つ本来の特性を引き出すことが出来るのであります。これらの酒を熟成無しで飲酒する事は誠にもったいなく、且つ残念な事であります。ただし、市販の古酒(熟成年数が5年以上)のように、熟成が進みすぎても、日本酒本来の風味からは離れてしまい、最適な熟成を逸してしまいます。日本酒の熟成はワインよりも短く、だいたい1年半から3年で最適な飲み頃になるのが多いようです。(酒岳堂では、紹興酒のような風味を持つ古酒になるまで、熟成はさせておりません。)
ここまでは、酒の熟成が嗜好的に優れている事を説明しましたが、もう少し科学的に説明しますと、酒の中の水の分子構造は絶えず変化しており、新しい酒ほど分子の集団の単位は大きくて、熟成した水の分子集団は非常に小さいものとなっております。この事を酒の味覚で表現すると、ピリピリとした舌を刺す刺激のある味から、マイルドでソフトな味わいに変化していくのです。一般の酒蔵では、酒を搾ってから6ヶ月前後はタンクの中で寝かせて(熟成)、秋頃に、美味くなった酒を瓶詰めして出荷されるのであります。中でも、火入れを行わずに出荷される酒を「ひやおろし」と呼び、酒通には人気があります。
一般酒では、以上のプロセスを半年ぐらいで行うのに対し、私共で取り扱う吟醸酒では、1年半から3年の期間を費やします。これは一般の酒に比べ酒質が強く長期の保存にも絶えられるからであります。普通の酒蔵では、新酒が出来てから冬、春、夏、秋と移り変わる中で酒蔵内の温度は冬場の0度近くから夏場の20度以上になります。当然、酒の温度も同じように変化し、これは酒に大きなストレスとダメージを与える事にもなり、酒質の低下を伴います。
生野銀山の坑道内は一年を通じて10度から11度と低温で、この一定な温度環境は穏やかな酒の熟成に不可欠で、酒を保存熟成するには丁度良かったのであります。また、坑内の湿度は90%と少し高いように思われますが、ワインボトルのように瓶の口をコルクで打栓された瓶は、瓶内と瓶外の湿度差が少ないために、酒の呼吸が非常に穏やかで(浸透圧の原理を思い出していただければわかると思いますが)、まさに天然の酒庫ともいえるのであります。生野銀山の大自然の胎内で悠久の時間を重ねる姿は熟成酒の極みであります

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